ドイツで「ヒプノセラピー出産」体験記①|金明希さん

ドイツでの出産

2024年8月30日、ドイツで第一子を出産した。病院の分娩室に入り7時間。吸引器で引っ張り出された赤ちゃんは、まず驚いたような表情を見せて、おぎゃあと泣いた。私は赤みがかかった、ほんのりピンク色の小さな体を抱き、まだ羊水で濡れている額にキスをする。これから何百万回もするであろうキスの、記念すべき第一回目だ。

 

この出産に備えるべく、妊娠中に私はヒプノセラピー(催眠セラピー)という、痛みを和らげるメソッドを習っていた。穏やかに出産をするんだ!と妹には事前に宣言をし、そして出産後は「初産なのに、ヒプノセラピーで穏やかな出産が出来た!」と周りに自慢する未来を想定していた。そう、想定していた、とここで書いたのは、実際の出産では催眠どころか、オペラ歌手並みに叫ぶこととなったから。もっと言えば、妊娠発覚の時点から出産当日まで、「予想外」で「ドキドキ」がずっと続いていた。

 

退院した後、出産に立ち会ってくれたパートナーから、君がずっとやっていたヒプノセラピー講座は実際に役に立ったか、と聞かれた。正直役に立った所もあるし、そうでなかったところもある。そもそも悪阻がひどかったので、全て受講できないまま出産当日を迎えてしまったのだった(もちろん、それも想定外!)。それでも、出産前日に、当日に、そして産後にヒプノセラピーは色々な場面で力になってくれた。「全て」ではなく「部分的」であっても負担が少なくなったことは、私にとって大きな意味を持っていた。

 

記録はいつだって宝。この壮大な体験を記録にしないのは、もったいない。だから記憶が薄れてしまう前に、妊娠発覚から出産までの体験を記録として残すことに決めた。私自身の備忘録(いや忘れられないけど)になるように。そして、いつか出産をしたいと思っている人の未来に、少しでも役に立つように。

 

ヒプノセラピーとの出会い

いつかは母になりたい。物心ついた時から、漠然と頭に描いていた。そして、それをずっと楽しみにもしていた。一方で、周りの家族や友人から聞いた話、そして数々の出産体験記に恐れおののいていた。

 

「破水から出産まで数十時間」

「赤ちゃんの頭が出かかった時に、担当の先生が不在で、頭を押し戻された」

 

出産は命がけ。もちろんそれは知識として知っていたけど、痛みに耐えられる自信が正直私には全く無かった。出産が壮絶すぎて、我が子を手に抱いても喜びを噛みしめられなかったという声には涙が出そうになった。衝撃的だったのは無痛分娩。麻酔が効くタイミングが遅く、いきむ瞬間に下半身が麻痺してしまい逆に大変になった人もいるらしい。さらに、そもそも痛みが消えない場合もあるとか……痛み無しって漢字では書くのに!

 

基本的に体力もある方だけど、そんな個人の資質も出産ではもしかすると一切関係ないのかもしれない。自分の周りで出産にまつわるポジティブな話をほとんど聞いたことがないことも、不安に拍車をかけた。ドイツ現地の本屋で、とある女性向けの雑誌を偶然手にしたのはそんな時、コロナによって世界が一瞬にして変わる前年の2019年だった。

 

当時切り取った記事

 

そこで、「ヒプノセラピー(催眠セラピー)で幸せなお産」と書かれているインタビュー記事を見つけた。今まで私が持ってきた出産のイメージとは、真逆の言葉だ。早速読んでみたところ、以下の内容が記載されていた。

 

・写真のクリスティン・グラフさんというドイツ人女性は、3人の子どもを持つ母親で、上2人の出産があまりにも壮絶だったことから新たなやり方を探したところ、マリー・モンガンという米国人女性が発案したとあるメンタルメソッドに出会う。数秒間で深い「リラックスして緩める催眠状態」にすることに重きを置いた出産メソッドで、これを用いて3人目を出産したところ、信じられないくらい穏やかな出産となった。

 

・メンタルトレーナーとしても働いていた彼女は、これを多くの女性に伝えたいと考え、体系立てたメソッドを開設し、die friedliche Geburt (平和な、安らかなお産)というヒプノセラピーのお産コースを立ち上げる。

 

 

彼女が立ち上げた、お産のコース「die friedliche Geburt (平和な、安らかなお産)」とは?

 

https://die-friedliche-geburt.de/

 

ネットで検索すると、おしゃれな色合いのサイトが出てきた。内容としては、妊婦一人一人のペースで、リラックスした状態のお産を目指すことを目指した、オンライン講座を提供しているということが分かった。ドイツ現地の大手新聞社にも、女性向けのポータルサイトにも取り上げられていて、受講者の体験エピソードなどが読めるようになっている。なお、緊急時には、医療関係者と連携してお産をすることを奨励している点には好感が持てた。

 

痛み無し(あるいは、痛みが少ない)出産の世界がある───。これだ、と思った。こんな風に、気持ちを楽にした出産をしたい。穏やかな気持ちで臨みたい。同時に、意識や呼吸を通して催眠状態を作る方法だと聞いて、どこか腑に落ちた。その頃には、人間の潜在意識は、日々の思考回路や行動にとてつもなく影響を与えていることを聞いていたし、通っているバレエ教室でも、筋肉が少しでも和らぐように呼吸を意識しながら体を動かすよう教わっていた。何より、痛みが少なくなるのであれば正直手段は何でも良い、使えるものは全て使いたいというのが本音だった。

 

その時点で、「ヒプノセラピー」という言葉は聞きなれない言葉だったし、そもそも出産予定も何も無かったけど、いつか母になる時は呼吸を整えて臨む、そんな未来が見えた気がした。

 

→ ヒプノセラピー出産体験記②(2024年12月公開予定)に続く

※本記事はPR記事ではございません。


ライター/金 明希 (きむ みょんひ)
東京生まれ。現在ドイツ在住。ダンス、旅、読書、映画が好き。
Instagram @mion_91k

 

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