※本記事は「ヒプノセラピー出産体験記①」の続きになります。
一時帰国中に妊娠が判明
ドイツの雑誌でヒプノセラピーのインタビュー記事を読み、実に4年。2023年の12月末、私は一時帰国中で実家にいた。その時、毎月規則正しく来る生理が来ていないことに気が付き、試しに薬局で妊娠検査薬を試したところ、瞬く間に陽性になった。すぐに近所の産婦人科の予約を取ると、妊娠2か月であることが判明。超音波検査をすると、デラウェアの粒のようなものがモニター画面に映し出されて、それが胎嚢(たいのう)だと告げられた。
妊娠した!と家族全員で手放しで喜んだのも束の間、数日後に悪阻が始まり、世界が暗黒期を迎えたような気分になった。毎朝、目が覚めた瞬間から気分が悪く、ちょっと買い物行っただけでも日帰り旅行に行ったくらいの体力を消耗する。叔母も、大学時代の親友も、幼なじみのお姉さんも、誰もが健康優良児と認識している私が、辛そうにしている様子に驚いていた。
日本から長距離フライトでドイツに戻ったのは、妊娠7週目の時。まだ流産の危険性が高いと言われる12週以内だったから、お願いだから無事でいて、と何十回も祈りながら航空券を片手に飛行機に乗り込んだ。フライト中は悪阻と不安でずっと吐きそうだったけれど、今自分の身体の中で、二つの心臓が動いている。窓から空を見ながら、不思議な気分になったことは、今でも鮮明に覚えてる。
ドイツに戻ってからの妊婦生活
ドイツに戻ると、真っ先に産婦人科の予約を入れた。2頭身の赤ちゃんからは、小さな手脚が生えていることが分かった。そこから悪阻はますますひどくなり、吐き気と頭痛でベットから起き上がれない日々が始まった。さらに、甘党だった私が甘いものを一切欲しなくなり、歯茎を鍛えるために習慣にしていたオイルプリングが(記事参照)、オイルの香りにも食感にも耐えられなくなり、においだけで気分が悪くなるという理由で、スーパーでは精肉コーナーを避けるようになった。考えてみれば、出産はどうなるんだろうと前々から恐れていたけど、そもそも悪阻のことをすっかり(!)忘れていた。
集中力も切れ切れとなり、常にだるい。何と言っても体が重い。眠りにつく直前の、ウトウトとしている状態が一日中ずっと続くような感じだ。耳鳴りも経験し、周りの声が一瞬大きくなったり小さくなったりといった三半規管がぐらつくような感覚も覚えた。これまで骨折も入院もしたことなかった私は、生まれて初めて理解したのだった。こんなにも、自分の体が思うように動かない病人の生活は辛いのだ、と。普段お世話になっているホメオパシーの先生からは、「悪阻は赤ちゃんがちゃんと育っている証拠」と言われ、それを心の支えにしていた。というよりも、辛すぎて、その言葉無しには過ごせなかった。吐き気対策のレメディーをもらったところ、気持ち悪さは軽減していった。
それにしても、妊娠している時の状態ってどうしてこんなにも差があるのだろう。ドイツ在住の元同僚は悪阻がほとんどなく、卒業論文まで書き上げていた。一方で、妹の知り合いは、悪阻で食べても吐いてしまい、栄養が摂取できないため入院していたらしい。これだけ現代医学が発達しても、人類が月に上陸できても、太古から存在する悪阻にはまるで「手が出ない」。私は、自分たちの身体って何て神秘的で、謎に包まれている存在なんだ、と感動し始めていた。
社会における「妊婦」の存在
そして悪阻と戦いながら、同時に自分が社会的弱者になったことをひしひしと感じるようになった。判断力も体力も著しく低下していたから、何か緊急事態が発生したら、いとも簡単に命を落とすのかもしれない。そう思うと本当に恐ろしくなった。にわかに信じられないけれど、世の中には「妊婦は病気じゃないから怠けるな」という認識を持つ人がいるらしい。私自身は幸いなことに言われたこと無かったけれど、もし言われていたとしても、本当に何にもできなかった。文字通り、何もできなかった。一方、ネットでたまたま妊娠のことを調べていたら、フランスでは、「刑法典」の434-3条によ「妊婦が弱者」と定義されていることを知った。正確には、以下のように「自己を保護することができない者」と記されているらしい。
https://www.legifrance.gouv.fr/codes/article_lc/LEGIARTI000037289453
「未成年者または年齢、病気、虚弱、身体的もしくは精神的障害または妊娠のために、自己を保護することができない者に対して行われた剥奪、虐待または性的暴行もしくは虐待を知っていながら、司法当局または行政当局に通報しなかった者、または犯罪がなくなるまで引き続き通報しなかった者は、3年の禁固刑および45,000ユーロの罰金に処せられる。」
妊婦を弱者というカテゴリーに入れ、フランスの国家の最高権威である「憲法」に落とし込むことで妊婦を守るというのは、素晴らしい方法だと感動した。
ちなみにドイツにおける妊婦に関する法律を調べてみたところ、残業禁止、夜勤禁止、4時間以上立ちっぱなしの仕事禁止、といった、弱者と直接記されている訳ではないけれど、細分化された労働における禁止事項がたくさん出てきた。 絶対に無理させるな、というメッセージが伝わってくる。妊婦に関する日本の法律も調べてみたら、「中絶」に関する権利があることが分かった。妊婦に関する健康状態については触れられていないようだ。
まずはYouTubeの動画から
悪阻でふらふらになりつつ、何せ一日中布団の中で過ごす日々。クリスティンさんのメソッドは常に頭にあって、申し込む気はあったけれど、今始めたところで集中力も続かず、正直理論を理解するのは難しいだろうということで、まずは彼女のYouTubeチャンネルを自分のペースで見始めた。そこで知ったのは、彼女の動画の数々(2024年12月時点で376個配信されている)。そんなにネタあるの……?と最初は正直思ったけど、実際の受講生やお産婆さんへのインタビューに加えて、赤ちゃんとのコミュニケーションといった「出産後」にも役立つ内容があることが分かった。彼女が今まで調べて考え尽くしたこと全てを、余すことなく伝えようとする意志が伝わってくるよう。ちなみに、この講座を法人化するにあたり、何人か雇用も生んだとか。私は彼女の生き方にも感銘を受けていた。
https://www.youtube.com/watch?v=zyo6ecUk1Og
その中で、いつも聴いていたのがこの受講者のインタビュー動画。左がクリスティン・グラフさん。右が双子の女の子を出産した受講者のスーザンさん。
映像の内容を要約すると・・・
・第一子の出産が壮絶で、次こそはもっと良い形でと思ったことがきっかけで受講。
・とにかく呼吸の練習をしたことで、出産当日は自分のペースで舵を切って進めることが出来た。
・双子の出産はびっくりするほど早く、穏やかで、家族や病院関係者からも驚かれるほどだった。
自分で進められた感覚がした、という言葉が印象的だった。悪阻と戦って、毎日を生き延びることばかり考えていたけれど、赤ちゃんが出たいと思ったタイミングで、自分のペースで出産を進められたらいいな、と約半年後に待っている出産当日について、漠然と思い描くようになっていった。
→ ヒプノセラピー出産体験記③(2025年1月公開予定)に続く
※本記事はPR記事ではございません。