ドイツで「ヒプノセラピー出産」体験記④|金明希さん

※本記事は「ヒプノセラピー出産体験記③」の続きになります。


 

出産前日

8月29日朝4時、お腹の底から凄まじいエネルギーを感じて目が覚めた。15分から20分間隔で「波」が押し寄せてくる。ベビーベッドの柵につかまりながら、ヒプノセラピーで習った呼吸法 ― 鼻から吸って、口で吐きながら一気に赤ちゃんを押し出す ― を試して、なんとか「波」を鎮めた。もうすぐ赤ちゃんに会えるのかもしれない。嬉しくなったと同時に、私は困惑した。最初に弱い「波」が来て、それが少しずつ強くなるのではなく、いきなり想像以上に強い「波」が来たことに。そして、その「波」を鎮める一呼吸ですら、大量のエネルギーを消費することに。

 

朝8時半、用意していた出産用の荷物をまとめてパートナーと病院に向かった。この時点で、アドレナリンが放出されて興奮状態に入ってしまったことが、自分でも分かった。脱力ってこんなに難しいんだ。そうか、脱力にも技術がいるんだ。病院に向かうタクシーの中で、ぼんやりと思ったのを覚えてる。しばらくして病院に到着。まず分娩室に案内され、そこで私の名前と生年月日が記載されたリストバンドを受け取り(QRコードが入っていて、現代風!)、準備をし始めたものの、「赤ちゃんが出てくるまで、もう少し時間がかかりそうね」と、先生。ひとまず病院の宿泊室に移動して、様子を見ることに。

 

暑い日だった。ベッドに横になっても、座っても、立っても、「波」を鎮めることに必死で、一体どんな風に過ごせば良いのか、全く分からなかった。少しでも外の空気を吸おう、とパートナーが提案してくれて、何度か病院の中庭に散歩しに行った。この中庭は、普段庭師が隅々まで綺麗に手入れしてくれていて、ピクニックをしたいくらい気持ちが良い。その小川の周りを散歩したり、ベンチに座って休んだりすることで、素敵な景色を見られたこと自体は、精神的には良かった。それでも32度の気温は、妊婦の体力を容赦なく奪っていく。結局15分くらいで疲れてしまい、宿泊室に戻った。お昼ご飯は病院で食べたけれど、材料、味付け、調理方法の全てが美味しくなく、正直箸が進まなかった。それでもお腹はすくし、いつ生まれるか分からないから、完食したけれど。

 

 

気が付けば夜になっていた。朝から「波」が続いているから、気分的には今でも生まれそうだと思っていた。だけど、産婦人科の先生が確認すると、子宮口は2センチしか開いておらず、まだ体は出産準備が整っていないことが判明。絶望的な気持ちになった。嘘でしょ。こんなに「波」が続いているのに?まだ2センチ……!

その夜は、少しでも横になって寝ようとするものの、「波」とアドレナリンで眠りにつけず、ずっと目が覚めていた。それでもなんとか、1時間半は眠りにつけたのは良かった。その後、一日ずっと付き添ってくれたパートナーが少しでも眠れるように、YouTubeで睡眠用の静かなBGMを流す。妊婦の私を支えてくれる彼が倒れたら、私も赤ちゃんも文字通り終わりだ。だから、彼が寝られたことには少し安心した。また、自分の気持ちを少しでも落ち着かせる、という意味でも静かな音楽をかけたのは良かった。

そして彼が眠り始めたことが分かると、一人でまた「波」を鎮める深呼吸を繰り返していく。でも、オンライン講座は全て受講できなかったとはいえ、あんなにディズニーの世界に入る練習をしたのに、アドレナリンが放出され過ぎて催眠状態には全く入れない。そうだった。そもそも、自分は元々アドレナリンが出やすい人間だった。その事実を、この日まで忘れていた。もっと他の練習方法や実践的なものをやるべきだったのかな。明かりを消した宿泊室で、色々な思いが交差する。ちなみに、本番用のヒプノセラピー講座もあったのだけど、それすらも忘れてしまっていた。

 

自分の体力全てを使って「波」を鎮めることに集中していたら、あっという間に朝を迎えた。「波」の感覚は5分置きになっている。産婦人科の先生に見てもらうと、子宮口は6センチ。もう生まれる準備が整っている、と言われたので、再び分娩室に移動することが決定。いよいよだ。だけど宿泊室のクーラーで喉はカラカラに、28日の夜にやったヨガで下半身は筋肉痛に。その時点で、「波」と緊張と寝不足により今にも倒れそうなほどフラフラになっていた。こんな状態で出産できるのかな、と不安になりながら、30日の朝7時頃パートナーと一緒に分娩室に向かった。

 

※本記事はPR記事ではございません。


ライター/金 明希 (きむ みょんひ)
東京生まれ。現在ドイツ在住。ダンス、旅、読書、映画が好き。
Instagram @mion_91k

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