麹を使ったポップアップイベント「The Alchemist Kitchen」が開催

ベルリン在住新進気鋭のシェフ、オマー・マルティン氏のプロジェクト「The Alchemist Kitchen」による、ヴィーガン&グルテンフリーのフルコースポップアップディナーイベントが、コンテンポラリーな日本食やお酒を提供するレストラン「shizuku.」で開催された。

 

 

待ち焦がれた夏日がやっと来ては、激しい通り雨がやってきて、去って、なんだかひんやりしていた日曜の夜。この街デフォルトな「静」の雰囲気が漂い、店名の響きのように、雫が滴るような時間の流れ方も、彼の繊細なミニマリズムが宿る料理哲学も、全て完璧なマッチングだった。

 

イスラエル出身のオマー氏は、ベルリンヴィーガンレストラン史において、マイルストーンだった「kopps」や「Alaska」、またイスラエルの「Opa」で従事後、現在ベルリンで最もホットなレストラン「Nobelhart&Schumutzig」で勤務するシェフ。同所は、2024年世界で最もサステイナブルなレストランに選ばれた。ベルリン市内から250km圏内で生産される信頼できる食材だけを用い、地産地消や持続性をポリシーに、90%以上べジタリアンのコース料理をサーブしている。

 

彼自身も、ヴィーガン&グルテンフリーを日々実践している。「サステイナビリティを考えたら、ヴィーガンになるのは自然な流れだった」。自身の仕事やプロジェクト以外にも、連日イベントや友達の誕生日会で日々手腕を振るうなど、引くてあまたのアーティストシェフといえよう。

彼独特のセンスは、とてもインスピレーショナルで、洗練されていて、美しい。

「日本にあっても恥ずかしくない、だけど和める店を作りたかった」という、shizuku.オーナーの清水敦さん。割烹のようなカウンターがある店内は、肩の力が抜けつつも、ミニマリズムを追求したベルリンと日本の良いところどりといった雰囲気。西欧でも定着してきた「おまかせ」コースを、日本流儀のトップサービスと独自の世界観で提供している。厳選された日本酒、焼酎、ナトゥールワインのラインナップも秀逸で、料理との調和性は素晴らしかった。

 

Imacocokitchenによる麹とのコラボレーション

同プロジェクトでは、ベルリン在住の佐賀井優香さんが主催する「Imacocokitchen」による自家製麹がコラボレーションとして、料理に使用されている。

Jacket Attila @Aurelia Paumelle
Photo: @Louisfernandezphotography

 

彼らは、ホテル「Michel berger hotel」のレストラン(同所もFarm to tableポリシー)で勤務していた旧知の仲。2023年には、共に日本ツアーを敢行し、東京、大阪、京都、北海道でポップアップイベントも実現させた。優香さんは、マクロビオティックなどにも造詣が深く、種麹からバラエティに富んだ素材をミックスさせ、麹を製作している。

 

完全自然農で育てられたスペイン産の米を使用した米麹

 

ドイツ産のライ麦を使った麹

 

ストーリーを紡ぐようなコース展開

今回、同所では5回目の開催となり、コースは全10種類。

 

前菜。ワイルドハーブと 塩麹ソース

 

コーンクロケット、グルテンフリーブレッドとライ麦麹ソース

 

白菜、絹さや、にんじん、ポテト。クローブのスパイスが飾られていて、アクセントに

 

コールラビのステーキ、発酵ライ麦麹とパセリ

 

ロメインレタス、ブラックカラント、マスタードとディルのソース

 

ラディッシュ、ヘンプと海藻のソース。エスカベッシュのように、マリネードされた層と、濃厚なドレッシングの組み合わせが本当に素晴らしかったです

 

フェンネルのグリル、葉はフリットに、スープと。素材を余すことなく使い、多次元的な芳醇さを演出

 

スローローストされたヤーコン、スモークウォールナッツとパセリのソース

 

デザートはアイス2種

 

オーツミルク、ビスケットとクリームのレイヤー(嬉しすぎて旨すぎるグルテンフリー)

 

グリーンピースミルクのアイス、エルダーフラワーとカタバミ

 

五感が満たされる一皿一皿。ストーリーを紡ぐような展開。

野菜の持ち味を把握し、引き出す料理法が遺憾無く発揮され、足し算でもあり、引き算でもあり、掛け算でも割り算でもあるバランス。繊細で丁寧な味付けや調理法は、私たち日本人の感性に共感するものが。絶妙な加減のテクスチャーやレイヤー、多次元的に構成されていました。

 

麹の使い方も同じく。彼が麹を使い始めたきっかけは、地元イスラエルで勤務していたレストラン「opa」で使用されていたからだという。同所も、サステイナブルなポリシーに基づき運営されていて、オープンマインドだった。彼はかつて、スキルアップのためにベルリンの調理学校で基礎力を磨いた。タイレストランでの勤務経験も、独自のテクニックを得るのに役立ったという。「アジア料理の哲学は、日本料理とはまた違ったインスピレーションがあって、それらをこよなく駆使するのが好きだ」という。

 

「発酵は素晴らしいね。日本に滞在していた時、梅干し製作を体験させて貰って、ものすごく感銘を受けた。今こっちでミラベル(果物の一種)を使って、作っているんだよ。コンブチャはもう作りすぎて、今は作ってない(笑)」。ここドイツで梅や紫蘇を手に入れるのは至難の技。多くの日本人が、アプリコットやプラムなどで自作していたりする。

 

地産地消の大切さを伝えたい

実は、彼の料理哲学のコアは、地産地消を通じての啓蒙活動だったりもする。

全ての食材は、ベルリン近郊の知り合いの農家やコレクティブ(plattform2020wolkensteiner-hof といったオーガナイゼーション)から調達されており、その時々手に入る素材から献立をインプロビゼーションでデザインする。

 

「いつも素材が中心にある。旬の季節のものを使うこと、タイミング、保存方法などにもこだわっているよ。ここドイツの自給率の低さは結構なもの。日本もそうだよね。季節にそぐわないものや、輸入に頼るのは自然なことじゃない。皆はそれに慣れてしまっているけど、まさに行きすぎた資本主義の表出だよね。だから僕は、ここで生産されていないアボカドやココナッツは使わない。ローカルのものを消費して、サステイナブルであることの本当のクオリティや、クリエイティビティを伝えられたらいいよね」。

 

真摯なスタンスに、彼のファンたちは、次の章を心待ちにしている。

 


写真/Florian Paninski @butter_fachgeschaeft

文/田中麻姫子(himeee)

大阪府出身。DJ/Music producer。新聞記者として従事していた2011年、東北大震災をきっかけに意識と価値観の変容が起こり、ヴィーガンに。マクロビオティックを学ぶ。ローフード、グルテンフリー、発酵、サウンドヒーリングや占星術といったホリスティックヒーリング全般、自然農を実践。宇宙の法則・調和的で有機的であることの意義を哲学する学びの日々。ドイツ・ベルリン移住後、ローチョコレートのケータリングなどを行い、オランダ・アムステルダムのKushi instituut併設レストラン「Deshima」で勤務のち、多所でヴィーガンシェフとして従事。

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