【デンマーク】旅行者が環境アクションに参加し、お得に文化体験ができる 「Copen Pay」の取り組み

自動車ではなく公共交通機関を利用する、川のごみを集めるなど、観光客が環境に配慮したアクションを取ると、博物館の入場料やヨガ体験が無料となったり、レンタル自転車を借りられるといった、お得なサービスが受けられる—

今年の夏、デンマークの首都のコペンハーゲンでは、環境アクションを目的としたCopen Payと呼ばれるユニークなキャンペーンが行われている。今年の6月17日から8月17日の間にコペンハーゲンに滞在した人は、観光客が川のごみを集めたりする姿を現地で目にするかもしれない。

Photo:Daniel Rasmussen

このキャンペーンの仕掛人は「Wonderful Copenhagen」というコペンハーゲンの観光局。コペンハーゲン市や観光施設など、様々な地元の団体と協力して、2024年に試験的にキャンペーンを導入した。

「この試みで、コペンハーゲンがサステナブル都市として行きたい都市ナンバー1となり、更に他国で似たような試みを生むきっかけになれば」

Wonderful CopenhagenのPR担当者は、そう期待する。

Photo:Daniel Rasmussen

Copen Payのポイントは、住民ではなく観光客が主体となって動く点にある。人口約60万人のコペンハーゲンに、2023年に宿泊した海外からの旅行客は約1200万。町にとっても、極力自動車ではなく、バス、電車やレンタル自転車といった公共交通機関を使ってもらい、自発的に町を綺麗にしてもらえることは、メリットしかない。

加えて、SNSにより旅行者の誰もが文化体験の広告塔になることができる時代だ。環境、観光、広告と、さまざまな側面を絶妙に組み合わせているのがこのキャンペーンの強みと言えるだろう。

Photo:VisitCopenhagen

わざわざ休暇先で環境アクション? と思う読者もいるかもしれない。けれど、実際にゴミ拾いをしてカヤックを2時間貸し出しをしてもらったアメリカからの旅行者からは、「宝探しをしているような感覚」という声が寄せられたそうだ。また、インスタグラムでは、#copenpay で検索をかけると、ベリー農家でお手伝いをして自家製のアイスクリームをもらった人の投稿などを読むことができる。

Photo:Giuseppe Liverino @tourbillondel

せっかくなら参加してみよう、という環境アクションへのハードルを下げ、気軽に誰でも参加できる点、そして更に多彩なプログラムによる「ご褒美」が参加率と満足率を上げているCopen Pay。 2024年のキャンペーン期間中は、レンタルサイクルは29%増え、何トンものゴミが収集され、そして参加者の98%が「他の人に勧めたい」と答えたそうだ。

「有名なリゾート地であるスペインのマヨルカ島を予定している人で、このキャンペーンがきっかけでコペンハーゲンに変更する人はいないだろう。だけど、元々コペンハーゲンに興味持っていた人にとっては、このキャンペーンが決めてになり得る」

デンマークの新しい試みについて、ドイツの旅行ジャーナリストはこのように指摘する。

Photo:VisitCopenhagen

オーバーツーリズムという言葉が、聞かれるようになって久しい。観光客が増えることは地元経済にとって喜ばしいことではあるものの、周辺地域の住民の生活や自然環境に悪影響を及ぼしていることは、多くの国や地域で問題となっている。イタリアのヴェネチアが観光税を導入したのも、観光客を減らすことが目的だ。そのため、キャンペーンの実施期間も、毎年コペンハーゲンが観光客を最も迎える7月と8月が中心に設定されている。

 

「観光の素晴らしい点のひとつは文化交流で、私たちは観光客から多くのことを学びます。その代わりに、彼らがコペンハーゲンを去る際、自転車をもっと乗る、植物由来の食事を選ぶ、そしてどこにいてもより意識的な選択を続ける、そんなきっかけとなることを願っています」と、Wonderful Copenhagenの担当者。

Photo:Mellanie Gandø

その「成果」はすでにデンマークの周辺国に出始めている。例えば、ドイツ北部のブレーメンという町はドイツ鉄道と連携し、5月5日から8月31日まで、電車で到着して最低一泊宿泊(市内のホテルやAirbなどでの宿泊)した観光客には、「サプライズ・バック」という、プレゼントが用意されるキャンペーンを今年始めた。なかには、市内で使える観光クーポンなどが合計100ユーロ相当含まれ、電車で来る方が「お得」に旅ができる仕組みとなっている。

デンマークは、2050年までに、化石燃料から完全に脱却する世界初の国となることを目指している。

環境に意識を向け、住民も気持ち良く過ごせる旅の形の先駆者となったコペンハーゲンの取り組みは、日本の地方自治体にも、観光客を巻き込んで「未来」を作るための、アイディアを具現化するヒントと活力を与えてくれるだろう。

※参考

https://www.visitcopenhagen.com/copenpay

https://utopia.de/copenpay-kopenhagen-belohnt-reisende_705967/

https://www.travelbook.de/ziele/staedte/copenpay-kopenhagen-belohnt-umweltbewusste-touristen

https://www.falstaff.com/de/news/copenpay-kopenhagen-belohnt-erneut-nachhaltiges-reisen

https://www.travelnews.co.za/article/copenhagen-relaunches-green-travel-rewards

https://www.bremen.de/tourismus/entspannte-staedtereise

文/金 明希 (きむ みょんひ)
1991年東京生まれ。

出版社、翻訳会社の勤務を経て、2018年よりドイツ在住。
Instagram: @mion_91k

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