アロハ! ハワイの夫婦「おひさまファームズ」代表のヒデキこと山根英樹です。前半は私の記事、後半は妻ユキの記事になります。今回はハワイの農業の歴史についてお伝えしたいと思います。
太平洋上に浮かぶ無人島のハワイにポリネシア人がやってきたのは1500年近く前。星明かりを頼りにカヌーで3200km以上もの彼方からやってきました。彼らはタロイモ、ノニ、ブレッドフルーツ(パンの実)、ココナッツ、マウンテンアップル、バナナなどを新天地に持ち込みました。それらはカヌー・クロップと呼ばれます。
ブレッドフルーツ(パンの実)。ハワイ語でUlu(ウル)はソフトボール大で半熟のものを蒸したり、焼いたり、揚げたりして食べます。グルテンフリーでパンやサツマイモのような味がします。
私が出版した歴史小説「漂流アロハ」でも書きましたがハワイでは古代から「アフプアア」(Ahupua‘a)と言う里山農業のような仕組みが確立されており、山から海岸までの渓流沿いの渓谷を協同生活区域としてこのカヌー・クロップを栽培したり家畜を育てたりして自給自足が行われていました。オアフ島を車で走っていると表紙のような茶色の標識を見かけるかと思います。これがアフプアアというハワイ王国時代の領地区分表示です。現在15%以下の自給率のハワイはかつて15万人近い人口があり自給率が100%だったのです。
アフプアアの由来はその区域の境界線に豚の頭を模した木製の偶像が置かれたことから、アフ(頭)プアア(豚)と呼ばれるようになりました。山から流れ込む渓流からは灌漑(かんがい)用水路が作られ、水田でタロ芋が育ち、畑ではサツマイモやココナッツ、バナナ、パンの実などが栽培されていました。さらに下流には家が造られ、海に流れ込む場所には堰が設けられ、汽水湖のような場所で魚や海老、海藻の養殖などが行われていました。
© Oahu Resource Conservation and Development Council
1778年のジェームズ・クックの渡来以来、19世紀に入るとイギリス人やアメリカ人などの西洋人が多く入植するようになり、さまざまな野菜、果物、ナッツ類や家畜が持ち込まれるようになりました。やがて20世紀になると白人主導による砂糖とパイナップル生産がハワイ経済を牽引し、日本人、中国人、フィリピン人、ポルトガル人の移民が押し寄せました。そして集約的農業の一環で多量の化学農薬や肥料が散布され、土壌が劣化していきました。現在はそのような悪習慣を改め、多品種を環境にやさしい方法で栽培する農業にシフトしつつあります。
次号に続きます……、ここからは妻ユキの記事をお楽しみ下さい。
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夫ヒデキに引き続き、おひさまファームズのユキです。今回、ヒデキがとても大切な「アフプアア」というハワイ独特の自給自足システムについてお伝えしていますが、私からは今もその頃と変わらないであろう、ハワイの人々の尊い本質について少しお伝えできればと思います。
先日、ハワイの地元ニュースにて、食糧の荷上げが滞っていることが報道されていました。よってアメリカ本土から充分な量の食料が届かないがために物価が(更に)上がり、ハワイのレストランも(更なる)値上げを余儀なくされている、というような内容です。「だから文句を言わないで納得してね」と言わんばかりのニュースですが、このような事態は新政権発足以降頻繁に起こるようになり、その度に物価は上昇を続けています。
受け身である側は、そんな事態がどんなに不自然であっても、臨機応変に対処していくしかなかったというのが現実に近いと思います。それは、民の力でなんとかバランスを取ってきたという意味です。例えばパンデミック騒動の頃などは、生活必需品の不足はあったものの、食料品店はどこからともなく品物を仕入れ、比較的安価でそれらを販売してくれていたように感じましたし、奪い合いや買い占めが問題になることもなく、民衆は様々な情報を交換し合って生活していました。「あのお店に行けば、トイレットペーパーがあるよ!」といった具合に。
写真はファーマーズマーケットの野菜や果物
行政に抗議すべきところは抗議しながらも、当てにならないその助けを期待せず、自分の事も周囲の事も自ら守っていこうとするハワイの人々の優しいたくましさに触れる時、彼らが受け継いできたハワイ独特の意志を感じます。皆、こうして生きてきたのだと。それぞれが信じる善意を実行し、伝え合い助け合い、先達の徳行を真似る。そしてそれらが循環して、暖かい生命をこの島で繋いできたのだと。アフプアアの、自給自足型循環システムのように。
私は食糧の荷上げが滞っているニュースを聞いた時、「ああ、またか」と思いました。そして民衆に食糧難の恐怖を与え、おかしなタンパク源でも薦めてくるのだろうとうんざりしながら聞いていました。しかし、ハワイの地元ニュースはこう締めくくりました。「だから、ハワイのレストランは気付きました。本土に頼るのではなく、地元の農家から食材を買うことの重要性を」と。
地元ニュースが最後に放った「まともさ」に私は少し驚きながら、そこにキラリと現れたハワイの尊い本質に安堵しました。とはいえこれは、人間が持つ本来の至極まともな考え方です。ですが現状では、このようなメディアの発言は世界規模で制限される方向にあります。しかし、当たり前の事を表現できなくなってしまったら、更には規制もされていないのに勝手に自粛し、民衆間で相互監視を始めてしまったら、人間の未来はどうなるでしょうか。
ハワイには侵略された過去があります。私はこれからも、その歴史と共に人々の心に根付く人間愛「アロハスピリット」が、異常な動きを察知し、それを丸ごとアフプアアのような好循環へと転換させて、最終的な結果を覆していくと信じています。そしてそれは、本来であれば、地球上の人類全てが持っているはずの「原始的な力」だと思います。
写真はハワイ産のパパイヤ。酵素がたっぷりで細胞から元気になれる気がします。
おひさまファームズ
ヒデキ
サンフランシスコ生まれ。東京育ち。ホノルル在住。広告代理店、旅行代理店、豪州クィーンズランド州政府、ハワイ州政府農務省、イギリスの経営大学院、ハワイの大手銀行勤務を経て独立。コンサルティング、不動産、米国農務省統計局の調査員の仕事の傍ら農業に従事。著書に「小さな会社でもできる海外取引」「グローバル職人になろう!」「漂流アロハ」などがある。
ユキ
絵と音楽と物語の創作家、宇宙の神秘を読む夢想家。米国の大学を卒業後、神授的な創作の仕事に長く携わる。芸術分野の他、神秘哲学、占星術、数秘術、各種卜術、古代史、神話学、宗教学、図像学、色彩学などに明るく、食や代替療法も探究。「雪猫座 Hawaii」をYouTubeにて開始中。
Instagram: @ohisama_farms
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