VEGAN ROOM Vol.1 PERSON:Adrian Wu/Vegan Chef

プラントベースで未来を切り拓く

あなたのベジィヒストリーを教えてください

新しくスタートした「VEGAN ROOM」では、本誌記事で掲載した次代を担うヴィーガン・パーソンインタビューの完全版をお届けします。第1回目は、台湾を拠点にヴィーガンスウィーツ教室やオリジナル商品の開発などで活躍するヴィーガンシェフ、エイドリアン・ウーさんのライフヒストリーに迫ります。

写真提供/エイドリアン・ウー インタビュー・文/党偲 翻訳・構成/大崎暢平

 

エイドリアン・ウー

Adrian Wu

ヨーロッパスタイルのヴィーガンシェフ

ヨーロッパのレストランやブーランジェリーで10年に渡る経験を積み、ヴィーガンフードの世界へ。オーストリア・ウィーンにあるミシュランで1つ星を獲得したベジタリアンレストラン「Tian」や、パリのレストラン「Gentle Goumet」に勤める。

2015年からは香港、中国、台湾、フランス、ロシア、インドネシアの主要都市でハイレベルなヴィーガン料理教室を主催。さらに、台湾をはじめアジアの主要なヴィーガンレストランで料理指導を行う。2018年にはパリのレストランでパティシエを務め、現在は台湾に帰国し、ヴィーガンスイーツのクラスを主催する。ヴィーガン料理の中でも、多層的な味わいとモダンな表現を得意としている。

 

家族の影響で2歳からベジタリアン

私は2歳からベジタリアンとして育ちました。母が私を妊娠中、悪阻に悩まされて野菜以外のものを食べることができなくなったそうです。そして母は、私を出産後、そのままヴィーガンとして生きることを選びました。

もともと私の家族は乳製品アレルギーがあり、肉食にまつわる健康リスクや畜産業による環境汚染を知ったことで、家族全員が母の転向に従うことはごく自然な流れでした。母が美味しいヴィーガン料理を作ってくれたこともあり、私の家族は味に関してはかなりうるさくなりましたね(笑)。母は私を連れて台湾素食の料理教室に通っていたのですが、そのスクールを目で見て耳で聞いたことで、おのずと料理に対して興味を持つようになりました。

ベジィ読者はご存じの方も多いかもしれませんが、台湾は宗教的な理由でベジタリアンが多く、台湾独自のベジタリアン料理である「台湾素食」は国民の間でも浸透しています。台湾素食店もいたるところにあるので、宗教関係なく誰もが気軽にベジタリアン料理を楽しんでいます。もちろん、近年は欧米のトレンドを取り入れたヴィーガンレストランも全国的に増えています。それでも、美味しいヴィーガンスウィーツの選択肢となると、まだそれほど多くはないのが現状です。

実際のところ、台湾では「アフタヌーンティー」はそれほど浸透していませんし、洋風のスウィーツを日常的に食べる習慣についてもあまりないのが現状です。年配層を中心に、ほとんどの台湾人にとっての洋風スウィーツとは、「誕生日に食べるバースデーケーキ」という域を出ていないのです。私が10代当時、ヴィーガンはおろか卵と牛乳を使った一般的な西洋式スウィーツすら、ほとんど市場に出回ってはいませんでした。その時に、「ヴィーガンの西洋式スウィーツが台湾にないのなら、私がやってみようかな?」と思ったのです。当時の私は台北医科大学で生物科学を専攻する大学生で、卒業後は医療関係の仕事に就いたのですが、1年で退職してヴィーガンスウィーツを探求する旅に出ました。

当時は台湾で刊行されているスウィーツのレシピブックは非常に限られ、あったとしてもとてもシンプルなものばかり。ヴィーガンスウィーツの料理教室もほとんどありませんでした。海外サイトでレシピを調べたり、海外のスウィーツメーカーが使用している材料を調べたりして、自分で試作を重ねていく毎日。その後、台湾初のヴィーガンベーカリーがオープンしたこともあり、私も彼らと一緒に研究やメニュー開発を行いました。そして、台湾のいくつかのクッキングスタジオと協力し、自分のヴィーガンスウィーツ教室を立ち上げたのです。

編集部註:台湾は外食文化が生活の中で根付いていることもあり、一日三食を外食で済ませて自炊をしないという家庭もそれなりに多い。)

香港でのレッスンの模様。

 

ヨーロッパでヴィーガンスウィーツを学ぶ

3年間、台湾でクラスを行った後、自分のスキルをさらにアップグレードするため、ヨーロッパへ留学する道を選択しました。ミシュランの一つ星を獲得したベジタリアンレストランは、ウィーンの「Tian」とミラノの「Joia」の2店しかなく、私は「Tian」で研修生として勤務することに。どちらのお店もラクトオボベジタリアン対応だったこともあり、デザート部門では乳卵を使用していました。私はヴィーガンスウィーツを考えていたので、「卵と牛乳は使いたくありません」とはっきり申し伝えたのです。そのため、昼間は主に調理セクションで研修生として働き、仕事を終えたのちスウィーツセクションで見学してレシピを書き留め、アパートに戻った後にそれを試作していきました。

伝統的な調理法を参考にしながら、そこに私の知識を組み合わせてレシピを改良していきました。ヨーロッパの伝統的なスウィーツは、ヴィーガンで作ったとしても甘味料の量が多かったのです。そこで、よりヘルシーでアジア人の舌に合うように調整することに注意を払いました。そして時は流れて2018年、私はパリにあるミシュランで星を獲得したベジタリアンレストラン「Gentle Goumet」のスウィーツ部門で正式に働き始め、自分が作ったヴィーガンスウィーツを発売することになりました。そこで1年間働いた後、退職して台湾に戻り、かつて主催していたヴィーガンスウィーツの教室を復活させ、ヨーロッパで学んできたものを注ぎ込んだのです。

ミシュランの一つ星を獲得したウィーンの「Tian」での研修生時代。

 

台湾フルーツへの情熱(その土地で採れたものを愛する)

体調面で気を付けているのは、ビタミンやファイトケミカルを摂取するために、意識的に台湾産フルーツを旬の時期に食べること。ブルーベリーやクランベリーといった輸入フルーツや人気のスーパーフードもいいですが、それよりもグアバや釈迦頭(バンレイシ)、レンブなど台湾人にはおなじみのフルーツを選んでいます。そして、パティシエとしてスウィーツ作りを仕事にしていますが、自分自身の糖質摂取量をコントロールするためにも、なるべくスウィーツを食べる量を減らすようにセルフコントロールしています。たまに残業をすることもありますが、可能な限り1日8時間の睡眠をとるようにしていますし、週に3~4回はジムに通って体調を整えるようにしています。

ヴィーガンスウィーツの伝導師としての決意

「フランスで仕事を続けないの?」や「自分のお店をもたないの?」と訊かれることはしばしばありますが、私にとってはそれよりもスウィーツ教室を開くために世界中を旅する方が性に合っていますし、生徒さんたちと直接触れ合いたいと思っています。生徒さんにヴィーガンスウィーツの作り方を教えていく中で、ゆくゆくはお店を開きたいという夢を持っている人や販売していきたいという想いを持っている人に私のレシピを使ってもらうことができたら嬉しいなと思っています。

それまでは毎年ウィーン、フランス、香港、中国の各地を回って教える生活をおくっていました。それが新型コロナウイルスの影響で、台湾に帰国する予定が随分と前倒しになりました。現在、私は32歳ですが、台湾に帰国するのは飛行機に乗れなくなったらと考えていたくらいです(笑)。

現在、私と私のチームは、オンラインでスウィーツ教室を行うためのウェブサイトの構築と準備に奔走しています。私が作るスウィーツを直接ではなくオンラインでより多くの人と共有することができるようになったのは、新型コロナウイルス流行のおかげでもあります。将来的には日本でもオンラインで教室を体験していただける機会があればいいなと思っています。また、今年はオリジナル商品であるヴィーガンチーズを台湾の大手レストランやスウィーツショップで発売し、ヴィーガンスウィーツを作るための原材料を提供していきます。そして、将来的にはそれを海外にも輸出して、より多くの人に恩恵を受けてもらいたいと考えています。

香港のレッスンで作成した、マカロンやマドレーヌ、アーモンドフィナンシェなどのクラシックなアフタヌーンティーヴィーガンスウィーツ。

フランスでは特別な日に食べられるという伝統菓子「サントノーレ」をヴィーガンにアレンジ。

ミックスベリー、パッションフルーツ、バニラホワイトチョコレートのミラーケーキ。

オリジナル商品である「ヴィーガンチーズ」が台湾で販売中。

 

エイドリアン・ウー

Adrian Wu

Instagram : @vegan_chef_adrian_wu

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