東京・台東区蔵前。
かつて東京の流通を支えていた蔵前エリア。隅田川に隣接するこの下町には、幕府直轄の米蔵が立ち並んでいたといわれています。
そもそも「蔵前」という地名は、米蔵の前に由来するもの。古くから物流の拠点として、そして職人たちのものづくりの街として発展してきました。
近年では、その歴史ある倉庫や工場をリノベーションしたカフェやクラフトショップが増え、感度の高い人々が集まる人気スポットとして注目を集めています。

そんな街に2025年4月29日にオープンし、もうすぐで1年を迎えるトミヨソワカ蔵前店で、店長の乾莉香様にお話を伺いました。
アトミヨソワカって何?

まず印象的な店名の「アトミヨソワカ」
その由来を聞くと、「探しものを探すときに唱えるおまじない」だそうで、
“やっと見つけた”という意味の言葉で、3回唱えると願いが叶うのだそう。
“あとみよ”は、“後ろを振り返ってみなさい”
“そわか”は“願が成就しますように”という意味が込められています。
小説家・幸田露伴が「掃除が終わってもこの呪文を唱えて、もう一度その場所を見直しなさい」と娘さんに伝えた呪文なのだとか。
お店に足を運んでくださる方、そしてお菓子を手に取ってくださる方が、「こんなお菓子を探していた」「こんな空間を求めていた」と感じてもらえる場所になりますように……、そんな願いを”アトミヨソワカ”というおまじないに込めて付けた名前なのだそうです。
素敵ですね。
もともと日用品から環境問題を解決するスタートアップ企業で働いていた乾さんにとって、新しいチャレンジにはわくわくしかなかったそうです。
食べる人もつくる人も幸せに

アトミヨソワカの特長の一つは、就労継続支援B型事業所『ナンクルナイサァーろくえもん』と共に製造を行っているということ。
乾様のご母堂が大阪で代表を務める介護企業を母体としており、同社では重度介護に対応したデイサービスなどを展開しています。
大阪・大正にできた長屋施設にて、新たな福祉施設を作ろうとしたそうですが、古民家の長屋は段差や階段も多くバリアフリーには見合わず、B型就労継続支援事業所ならできると思い立ち上げたそうです。
※B型就労継続支援とは?
就労継続支援B型は、心身の障害や難病により一般企業での雇用が難しい方が、雇用契約を結ばずに軽作業などの生産活動を行う福祉サービスのこと。
利用者の方もスタッフのやりがいを追求し、少しでも高工賃で循環できるように、また、長年介護に携わる人が足腰を痛めて働けなくなった時にも働ける場所をと考えてスタートしたそうです。

-どうしてヴィーガングルテンフリーのお菓子を作ろうと思ったのですか?

「私も家族も食いしん坊でおいしいものが好き。それがベースにあります。コロナ禍、母と妹と一緒にファスティングを試みたのですが、ファスティングは前後に動物性を抜くヴィーガン食を行なわねばならなかったため、その時に美味しいヴィーガンスウィーツを探してたくさんのお店を巡りました。もちろん美味しいものにも出会えましたが、心から満足できると感じるものを見つけるのは、意外と難しいことなのだとその時に気づきました、私たちにとっては一時的な制限でしたが、ヴィーガン・グルテンフリーのお菓子ならば、アレルギーや病気で食べられない人でも誰もが美味しく食べられてヘルシー、そしてみんなが一緒にテーブルを囲んで笑顔で楽しめるお菓子の需要は絶対的にある! と思いました。」
まずはクッキーからスタート。
「何度も試作を繰り返し、徐々に納得のいくものを作っていきました。素材にこだわり、製造工程を丁寧に整え、ひとつひとつ心を込めて作り上げることで、”本当に美味しいから食べる” “自分が食べたい”と感じられるお菓子を作っています。」

「クッキー類とタルトの土台となるものなどは、事業所のパートナーさんたちが作り、パッケージに封をしたり、ラベルを貼ってもらったりもしていただいています。手仕事によるシールがズレたりすることも、人の手の温もりを感じる良さとして受け取ってもらいたいと思っています。」
-東京のお店を蔵前にした理由やきっかけは?
「私がスタートアップ企業で働いていた時の職場が蔵前で、そこで4年ほど暮らしていたことがあります。下町ならではの人の温かさが魅力的な街だと感じていて、馴染みもありました。大阪のお店はスタンドの簡易的な店構えだったので、もっとゆっくりと過ごしていただけるカフェを作りたい、もっと多くの方にアトミヨソワカを知ってもらい、そして利用者さんたちの工賃を上げたいと思っているとき、公園や保育園に隣接した革製品屋さんが不動産オーナーのこの物件に出会い、出店を決めました。」
テーマは「実り」

店舗のトータルデザインは、大正のお店のある長屋施設「よりどこ大正るつぼん」の運営会社であり、日々乃コーラも手掛けるデザイナーの細川さんという方に依頼されたそうです。
東京店に足を踏み入れると、まず目立つのがシンボルツリー。
大阪の店も枝をモチーフしていて、場をつくる時に、テーマの「実り」に合わせて空間の温かさや一息つける場所作りに、東京で自然の中に身を置くような安らぎを感じてほしいと庭師の谷岡さんにオブジェをお願いしたそうです。

デザインや人間の都合で木を伐るのではなく、自然の流れの中で生まれた素材を活かす——。そんな考え方が、この家具づくりの根底にあります。
実際に家具に使われた木は、制作を手がけた職人が管理する森にあったもの。ちょうど重なり合うように生えていたその木は、間引きが必要な状態だったといいます。
「この木は東京に行きたがっているんです」
少しスピリチュアルな話ですが、と前置きしながら、そう笑顔で語ってくれました。
みんな笑顔に

1階のカフェスペースと、入り口右手にはわんちゃん連れのためのドッグスペースが別に用意されていて、大型犬連れでも気兼ねなく入れてカフェ時間を楽しめるようになっています。
犬好きの乾さんは、以前カナダに住んでいた時にどこにでもわんちゃん連れで入れることに憧れ、それを実現させたのだそうです。

2階席も明るく広々していて、ゆったりと時間を気にせず過ごすことができます。
他では食べられないメニューの数々

ブランチプレートはデリが4種または2種から好きなものを選び、主食はおからを使ったコーンブレッド・キャロットケーキ・バナナブレッドの3種または米粉ベーグルから選んでつけることができます。

食物繊維たっぶりのおからを使っているから、ヘルシーでもっちりとして食べ応えも十分。
季節の野菜を使った日替わりデリも楽しみです。

パンプキングラノーラケーキに使われているグラノーラは、製造行程で割れてしまったクッキーなどをアップサイクルして使用。ほんのりシナモンなどのスパイスの風味と濃厚なかぼちゃのペースト、クリームがリッチなおいしさです。

朝、店頭で作っているのを見ていて、美味しそうと思い頼んだプラリネを練り込んだクリームのチョコレートケーキも、ナッツの味わいと香りのたっぷり豆乳クリームとふわもちなチョコレートケーキの相性もバッチリ。

他にも、蔵前商店街のお掃除仲間の方から紹介された干し柿を使ったキャラメルナッツと柿のほうじ茶マフィンは、アーモンドプラリネとピーカンナッツ入りと、一工夫あるのがアトミヨソワカならではの魅力です。
あんこ好きなお母様が炊いた自家製小豆あんこの乗ったミルクコーヒーマフィンなど、どれにしようか迷ってしまう魅力的なスイーツたちがたくさん。全部食べてみたくなります。

アトミヨソワカのこれから
乾さんのビジョンをお聞きしました。
「東京に出店して1年、カフェの聖地でもあり、近隣にはホステルも多く外人のお客様もたくさんいらっしゃいますが、半分はご近所の方、そして6〜7割がヴィーガンでない方で、みなさんがおいしそう、美容にいい、と言っていらしていただいています。美味しさを提供するのはもちろんですが、地域とのつながりも大切に、これからもこの場を温めていきたいです。そして蔵前店は、もっと利用者さんの工賃を上げたいという思いからスタートしているので、働く人たちはもちろんお客様ともに笑顔を増やしていきたいです。」

春の新作メニューは3つ
・菜の花と玉ねぎのお野菜マフィン
・あんバターマフィン
・ロンドンフォグ
(アールグレーのティーラテのケーキにブルーベリーのコンポートつき)
「ほっと一息つける場所としてふらっと家に帰るような気持ちでお店にきていただけたら嬉しいです。そして、お話するのも大好きなので、ぜひ話しかけてください。」
とキュートな笑顔とピースで見送っていただきました。

また行きたい素敵なカフェがもうひとつ増えました。
アトミヨソワカ
住所: 東京都台東区蔵前4丁目17−4
℡070-5559-7193
定休日:火曜・水曜
営業時間:9:30〜16:30(木曜日のみ10:30から)

千葉芽弓(Miyumi Chiba)
ベジフードプロデューサー
Tokyo Smile Veggie主宰
Veggyライター/アドバイザー
健康や環境、フードロスなど社会問題の解決や、ダイバーシティとしての食の多様性への対応のために、日本の伝統食文化を大切にしたプラントベースのメニューや製品の開発・カフェプロデュース、コンサルタントならびにナチュラルveganの普及啓蒙、食育活動を行う。



