東京・神楽坂はかつての花街。メインの神楽坂沿いには新しいお店も増え変わってきていますが、一般裏路地に入るとそこには懐かしい古民家と風情が残ります。
HASABONは有形文化財の建物が連なる路地裏の一軒の古民家レストラン。見逃してしまいそうな小さな看板と麻の暖簾のかかるレトロモダンな姿で住宅地にひっそりと佇んでいます。

ここを目指してこなければ辿り着けない、隠れ家という言葉がびったりのネオンや看板といった都会の喧騒を忘れられる、2020年のオープンから5年目を迎えるヴィーガンコースのある和モダンフレンチレストランです。
伝統文化に触れる時間

HASABONという店名は、禅語である「破沙盆(はさぼん)」から。割れて使いものにならないすり鉢のことを表し、「とらわれることなく、古い習慣を打ち破り、新しい生活を始める」という意味合いがあります。
ジャンルにとらわれることのないHASABONのクリエイションに繋がります。
暖簾をくぐり、お家にお邪魔するように引き戸を開けると茶器などが並び、季節の花が生けられています。

1階はカウンター席。カウンター越しに茶釜がみえます。

基本はカウンターですが、2階のテーブル席は最大8名まで、こちらでファミリーやグループなどで会食することも可能です。

2階には小上がりの炉のある利休畳の茶席があります。オーナーが自らセレクトした日本のさまざまな作家さんたちのすてきな器や伝統工芸品、茶器類が展示される前にある貸切のテーブル席は落ち着きます。
温かみのある焼き物たちを眺め、手に取ることもできます。

茶室では茶道体験を絡めたイベントなども行っているそうです。
フレンチ×和、伝統×現代のフュージョン
HASABONのメインシェフである小坂考弘氏は、本場フランスを含め、ミシュラン1つ星の「オーグードゥジュール メルヴェイユ」など、フレンチレストランで20年、さらに日本料理店で1年の経験を積んだのちHASABONでのメインシェフを務めています。
お茶と季節食材をテーマにしたお料理は、フレンチの繊細さに日本の旬や和食の五味五色五法に発酵の技法を生かした独創的でセンスが感じられるものです。

感性の光るお料理たちは味わい深く、お皿とのマリアージュも目でも楽しめるものばかりです。
どこかホッとするのは日本料理のエッセンスが感じられるからでしょう。

この日は、ヴィーガンのランチコースをペアリングティーとともにいただきました。
お任せのヴィーガンコースは、ディナーより少しライトに、季節とお客様に合わせてカスタマイズされています。
水無月のランチヴィーガンコース
梅雨入りし、街角の紫陽花も美しい季節のお料理と、お料理を引き立てるセレクトしたペアリングティー。ここでしか味わえないお料理をご紹介します。

◎アペタイザー1
こんにゃくとフェンネル、なめこの温菜
ピスタチオと玉露のアクセント
この組み合わせがどんなお料理になるの?お品書きを見た時には想像ができませんが、こんにゃくの食感、なめこの旨み、ファンネルの香りにナッティーなピスタチオのコクに、爽やかな玉露パウダーが奥行き感を持たせ、口の中になんとも言えないハーモニーを生み出します。もっと食べたいと後を引くおいしさ。
▪️パクチーほうじ茶
香ばしい焙じ茶にコリアンダーの独特で爽やかな風味がブレンドされたお茶は、蒸し暑いときにもぴったりな爽やかなお茶。
パクチーが苦手な方が作ったお茶で、パクチーが苦手な方にも受け入れやすいと言われます。
お料理ともベストマッチ。

◎アペタイザー2
生麩ととうもろこしのポワレ
生姜キャラメリゼソース
もちもちのよもぎ麩に、生姜の香りが効いた甘辛いみたらしのようなソース、そして香ばしく甘いとうもろこしのアクセント。モダンな赤いお皿が華やかさを与えてくれます。
▪️一番ほうじ
「一番ほうじ」は、その名の通り、その年に最初に摘まれた一番茶を使って作られたほうじ茶です。一番茶は旨味成分が豊富で、香りが高く、渋みが少ないのが特徴です。そのため一番ほうじは、通常のほうじ茶よりもまろやかで深みのある味わいと、上品な香ばしさが楽しめます。

◎アペタイザー3
自家製湯葉のフリット
うま藻、日向夏、ブロッコリーの糠漬け
とろりとした濃厚な湯葉は、白子のフリット?と思うほど濃厚な味わい。
ブロッコリーの糠漬けをほぐした発酵の甘みと酸味、海藻を発酵させた粉末のうま藻というナチュラルシーズニングの旨みに日向夏の爽やかな味わいがアクセントと、揚げ物なのにすっきりした後味の逸品。
発酵の研究をする小坂シェフならではの発想の一皿です。
▪️梨山高山茶
梨山高山茶は、台湾の梨山という標高の高い地域で栽培される烏龍茶の一種です。高山茶は、昼夜の寒暖差が大きく、霧が多く発生する高地の気候条件が、茶葉の成長をゆっくりにさせ、独特の風味を生み出します。梨山高山茶は、蘭のような華やかな香りと、透明感のある甘みが特徴です。

◎メインディッシュ
ベジタブルバーグ
マスタードオイルと自家製パン醤油
グルテンミートと野菜、きのこ、自家製パン醤油の醤油麹で作るベジバーグに自家製マスタードオイルをアクセントにしたメイン。
パン醤油はパンに麹を合わせて発酵させた醤油なのだそう。
▪️鳳凰単叢 (ほうおうたんそう)
中国広東省にある鳳凰山で栽培される烏龍茶の一種の高山茶。「単叢」とは、一本の木から摘んだ茶葉で作られることを意味し、その木ごとの個性的な香りが最大の特徴です。桃、杏、蘭、蜂蜜など、非常に多彩な香りの種類があり、その芳醇で複雑な香りと、奥深い味わいの気品高いお茶。

◎デザート
ライチのジュレ
フルーツ

◎お茶
抹茶/抹茶ラテ/ほうじ茶ラテ
〆のお茶は抹茶茶碗を各自好きなものを選び淹れていただけます。
抹茶ラテのプラントベースミルクは用意がなかったため、リクエストしておきました。
和洋折衷と温故知新

お料理のサーブを終えた小坂孝弘シェフにお話を伺いました。
──ヴィーガン料理を手がけたきっかけは?
神楽坂という場所柄も必ずヴィーガンやベジタリアンの需要があるだろうと思い、ヴィーガンコースをつくりました。
独学で、独自の感覚で作ったヴィーガン料理は発酵を生かし、ニーズやお客様に合わせて提供しています。初めてのお客様にはぜひ食べてほしいと思うものを、季節感を出し構成、リピーターの方には色々工夫し考えています。
──ヴィーガンコースを頼まれる方はどれくらいいますか?
インバウンドの方も少しずつ増えていますが、隠れ家的なレストランでリピーターのお客様が多いため、まだヴィーガンコースを頼まれる方は1割ほどです。
──これからやりたいことや夢を教えてください。
最近蒸留器を買ったので、蒸留から新たな広がりと可能性を探り、料理に生かしていきたいです。
よりお客様に喜んでいただけるHASABONでしか味わえないお料理を提供していきたいです。
ぽつりぽつりと語る小坂シェフ。実直さが窺え、料理することが本当に好きなんだなと感じます。

季節の移ろいとともに、次はどんなお料理をいただけるのか?と想像しただけでワクワクさせてくれる、そんな推しレストランです。

HASABON(ハサボン)
住所:東京都新宿区横寺町30 神楽坂茶ノ木テラス101
電話:03-6427-5448
定休日:月曜日(祝日の場合は翌日休み)、月一度火曜
公式サイト
Instagram:@hasabon_tokyo
写真・文/千葉芽弓(ちばみゆみ)
ベジフードプロデューサー/ Tokyo Smile Veggie主宰
「日本の伝統とナチュラルVEGANフードを未来に繋ぐ」をキャッチフレーズに、健康や環境、フードロスなど社会問題の解決や、食の多様性への対応のためのカフェやレストラン、宿泊施設の持続可能なメニュープロデュースや商品開発・コンサルティングならびに教育・普及啓蒙活動を行う。食を通じた復興ならびに地域創生事業、レシピ開発、食養生や食育・料理セミナーやパーティケータリング、ライター、メディア発信、イベント企画など幅広く活動している。
ホームページ:https://www.vegemiyu.tokyo/
Instagram:@vegemiyu
◆「Tokyo Smile Veggie」~トーキョーにベジなおもてなしを