意外と知らない日本茶のこと Vol.6

6回連載の最終回となりました。

連載の中では多くの部分を煎茶の淹れ方について触れてきましたが、今回は煎茶を飲み終わった後の茶殻の活用について、主に簡単に食べる方法について書きたいと思います。

お茶の水溶性成分は全体の20~30%で、不溶性成分が残りの70~80%と言われています。その不溶性成分の中で主なものが食物繊維で30~44%、たんぱく質が24~31%です。一方で、水溶性成分の中に含まれる食物繊維は3~7%、たんぱく質に関しては含まれないため、お茶殻を食べられるのであれば食べるに越したことはありません。

 

茶殻の食べ方

ぽん酢、しょうゆでそのまま食べる

玉露やかぶせ茶など葉が柔らかく苦みが少ない茶葉の場合は、飲み終わった茶殻の水気を切ってぽん酢やしょうゆをかけてそのまま食べるという食べ方が知られています。塩でもよいと思います。ご飯のお供におすすめです。茶殻の量が少なくても簡単にできますので、一人分からすぐできます。

 

ご飯にまぜて茶殻ごはんにして食べる

深蒸し茶と呼ばれる蒸時間が長く茶葉が細かくなっているお茶の茶殻は、水でしめて水気を切り、しょうゆまたは塩を適量混ぜたものをご飯によく混ぜて茶殻ご飯にすることができます。茶葉が大きいお茶の茶殻はご飯に混ぜると茶殻の主張が強くなりがちですが、深蒸し茶の場合はご飯の食感を損なうことなくお茶の風味を楽しむことができます。こちらも一人分からすぐできますので、ぜひお試しいただきたい一品です。

 

お茶殻の佃煮

硬いお茶殻や硬い茎が混じっているお茶殻でなければ、お茶殻を少し集めて佃煮にするのもおすすめです。これは佃煮にできるくらいの量が必要ですので、ご家族で複数人分のお茶を飲む方や、一人でも沢山お茶を飲まれる方にはおすすめです。できれば1日で溜めたお茶殻を使うのが好ましいですが、冷蔵庫に入れて保管をしたものであれば数日でも可です。茶殻の状態で長く持つものではありませんので、できるだけ保管期間は短いに越したことはありません。

お茶殻がある程度集まったら、砂糖、みりん、しょうゆ(それぞれ同量を目安に好みで加減を調整)を加えて水分がなくなるまで煮詰めます。白ごまや七味とうがらしを少し加えて少し味のアクセントをつけるのもおすすめです。神奈川県川崎市登戸にあるカフェ「お茶と食事 余珀」でもこのお茶殻の佃煮はご好評をいただいておりますが、上記のように比較的簡単に作ることができます。砂糖やしょうゆを使って煮詰めていますので、日持ちもします。お茶殻が思いがけず沢山集まった際にはぜひ試していただきたいと思います。

 

食べずに脱臭剤として使う

食べきれなかった茶殻を乾かしてある程度の量が集まったら、ティーバッグに詰めて脱臭剤として使うこともできます。実際にスニーカーに使ったことがありますが、ほのかにお茶の香りがして臭いも気にならなくなり、思ったより効果がありました。食べようと思って集めていた茶殻が、冷蔵庫の中で暫く使い道なく放置されてしまった場合には予定変更でこのような生かし方もありますのでぜひお試しください。

 

 

オーガニック、自然栽培、化学農薬不使用、化学肥料不使用のお茶について

難しいテーマですが、できるだけオーガニック、自然栽培、化学農薬不使用、化学肥料不使用の食材を選んで食事を提供しつつ、お茶にも関わっている立場から最後に少し書いてみたいと思います。

野菜もお茶もできるだけ自然栽培で作られているものがあれば個人的にはそれが一番良いと考えていますし、選択肢としては普段からできるだけ化学農薬不使用、化学肥料不使用、オーガニック、減農薬のものを優先しています。

そもそもは農薬が健康に与える影響が気になり選ぶ野菜をオーガニックにする、というところから始まりましたが、お茶に興味を持ち始めて化学農薬や化学肥料の使用をやめた農家さんの話を雑誌やウェブサイトで読んだときに、お茶を作られている方が農薬を使用することによって健康被害にあい、「このような農薬を使ったお茶を作るわけにはいかない」という思いから農薬不使用のお茶を作り始めたという話がいくつかありました。

それを知ってからは、自身の健康を損なうリスクを伴いながらお茶農家さんにお茶を作ってもらうより、農薬不使用のお茶を作ることで農家さんへの健康リスクが減るならぜひそういうお茶が広まってほしいというのが個人的には自然栽培や農薬不使用のお茶へ目を向ける一番の理由になっています。

もちろん、何十年も前から化学農薬や化学肥料が土や水など環境への悪影響があることは指摘されていますし、今ではよりサステイナブルな農業の必要性も高まっているという点でも化学農薬・化学肥料不使用のお茶を応援しています。

 

お茶に関わり始めて見えてきた別の視点

ここまでは基本的な自身のスタンスですが、少しずつですがお茶の勉強を続けて情報を得ていくうちに別のことも見えてきました。

まず、お茶の農薬の使用基準は食品衛生法に基づく食品中の残留農薬基準を超えないように「農薬取締法」によって設定され、農作物および農薬の剤型ごとに使用方法、使用時期、使用回数が定められています。違反した場合は懲役や罰金という厳しい罰則も科せられています。

次に、『日本茶のすべてが分かる本』に「なお、一番茶期は気温が低いので、害虫の発生が少ないため、防除をしないのが一般的です」という記載があるとおり、一番茶について特に山間地などの比較的寒い地域においては農薬での防除が必要ないところもあります。

仮に農薬を使用した場合でも使用後2週間はお茶の摘採ができないため、その間に伸びてくる一芯二葉の摘採される葉には農薬はかかっておらず途中で雨が降れば農薬も流れている状態ということになります。

また、化学農薬や化学肥料を購入するにももちろんお金がかかるため、最小限の使用で最大限の効果を出そうと考えるのが一般的です。作るという視点から考えても、使用限度ぎりぎりまで沢山使うという農家さんは少ないと思われます。

 

令和二年9月の農林水産省 生産局農業環境対策課 作成の『有機農業をめぐる事情』によると、緑茶(荒茶)の総生産数に対する有機JAS(国内)の割合(H30)は6.10%となっています。まだまだ少ないです。

お茶を飲むことによる生活習慣病予防など期待される健康効果については以前の記事で書きましたが、その実験で飲まれているお茶は特に有機JASのものが使われているわけではありません(これはお茶の研究をされている著名なお茶博士にも直接質問して聞きました)。そう考えると慣行栽培のお茶でも化学農薬や化学肥料による影響よりも、健康効果の方が恐らく高いと考えられますし、仕事柄かなりの量のお茶を口にされている方もいますが、慣行栽培のお茶を飲み続けて健康を害したという話は今のところ聞いたことがありません。

個人的には自然栽培、化学農薬・化学肥料不使用、オーガニックのお茶の方が安心という気持ちもありますが、上記のように考えると慣行栽培のお茶(一番茶については特に)を飲んで一般的には健康被害を心配する必要はないのかもしれない、とも思っています。ただ、人によっては化学農薬・化学肥料に敏感な方がいらっしゃるのも知っているので、そういう方は慎重に自然栽培やオーガニックのものを引き続き選んでいただく必要があると思います。

数年前に比べると、オーガニックのお茶、化学農薬・化学肥料不使用のお茶、自然栽培のお茶も少しずつ増えてきましたので、ネットで検索して農家さんやお茶屋さんから直接購入していただくのが早いと思います。

 

6回にわたり、お茶の淹れ方、食べ方、茶道のことなど、少し細かい日本茶のことを書かせていただきました。シンプルに日本茶を飲まないのはもったいない、という想いだけですので、この連載をきっかけに日本茶に何となく興味を持った方、日本茶を飲み始めた方、以前より飲むようになった方がお一人でも増えていれば嬉しく思います。難しく考えずに、まずは一服淹れてみる、点ててみるところから始めてみてください。ぜひ日常に日本茶の時間を。

 

文・写真/正垣克也

カフェ「お茶と食事 余珀」店主、日本茶インストラクター。茶道と日本茶、オーガニックでプラントベース なライフスタイルをゆるりと発信中。お店では身体にやさしい食事やお茶、リラックスできる空間を提供する。

Instagram:@shogakik

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