荒川区西尾久。JRの田端駅または都電の小台駅から歩くこと10分ほど。人々の暮らしが息づく古き良き下町の商店街にある「暮らしの思想」。
お隣は銭湯、天ぷら屋さんやふとん屋さんなど懐かしい商店が今なお立ち並び、人々が行き交う旧小台通りは、昭和にタイムスリップしたような感覚を覚えます。
”暮らしの思想”という店名を聞くと、何のお店だろう? と思いますよね。

昭和の街並みにリンクするこの新しいお店は、私たちの暮らしに寄り添ってきた本、花、やさしいプラントベースカフェを兼ね備えたお店。今年4月にオープンしたばかりです。
ドッグフレンドリーで、バリアフリー。ペーパーレスやIT化が進み、忘れてしまいがちな季節感や季節の花のある暮らし、そしてレトルトやファストフード化などで、埋もれがちなステキで大切なものたちを思い出させてくれます。

生活の風景を提供する
本や花を扱うお店ですが、本を本だけで、花を花だけで売るということではなく、それが暮らしにどのように挿入されるのかを想起させる場所。それは、このお店を訪れる人がそれぞれの”暮らしの思想”を考えるきっかけになる場所でありたい……、そんな思いが込められているそうです。

本は、ブックディレクターである中村碧宙氏が、花は華道家の増渕若雨氏が担当。

中村碧宙さんと増渕若雨さんはどちらも建築を学び、本・花を用いて空間を創る仕事という共通点から、それぞれの専門性を持ち合わせて、”暮らし”を軸にしたお店を開くことを決意。そこに寄り添う食として、ロースウィーツ&米粉スウィーツ「aika」の中村美穂さんが加わりました。

好きな本とスウィーツをお花に囲まれて
明るく開放感あふれるオープンな「暮らしの思想」。
花に手招きされるように店内に入ると、ブックディレクターの中村さんがセレクトした本が並びます。
カウンターには季節の草花やハーブ、米粉のパンやグルテンフリーヴィーガンスウィーツ、ローケーキが並んでいます。
どれも美味しそうで目移りしてしまいます。
本は以下の8つのカテゴリーでセレクトされています。
・暮らしの思想
・声と沈黙
・物語ること
・思索と創作
・台所と食卓
・植物の知
・日常からの旅
・子どもと創造
ブックディレクターならではの視点と感性にときめきます。

季節のお花たちが空間を彩ります。
ここで増渕さんが生花教室をすることもあります。

枯れたお花やハーブをドライにしてナチュラルな虫除けにしたり、お花たちは最後まで大切にしています。
心とからだをふわっと包み込むようなプランドベーススウィーツたち
暮らしの思想のフードやスウィーツはすべて、動物性食材・白砂糖・小麦不使用で心身のことを考えたものばかり。
外はかなり蒸し暑かったこの日。ショーケースの中に並ぶローケーキのひとつ「レモンロールケーキ」に惹かれ、いただきました。
ベイクしないローケーキとは思えない、リッチながらもふんわり軽やかで重すぎない美味しいケーキでした。爽やかなレモンの風味と酸味が後味もすっきり。
気になる本をめくりながら美味しいスウィーツとコーヒーをいただき、ギフトのお花を買って幸せな気持ちで帰路につけました。

米粉のシナモンロールなどのパン、キャロットケーキやマフィン、クッキーやテンペを使ったグラノーラやチップスなどがあり、テイクアウトもできます。

暮らしの思想のオーナーである中村碧宙さんにお話を伺いました。
——暮らしの思想を3人コラボではじめようとした経緯を教えてください。
本を片手に、お花を見ながら、ゆっくりビオワインやスペシャリティコーヒーなどを楽しめる場所をつくり、そこで提供するお食事はどのようなものがいいだろうかと考えたときに、母が手がけるスウィーツブランド「aika」に声をかけました。生き生きとした旬のお花を前に、プラントベースの食事をすることは、食べるということそれ自体に意識が向いたり、感覚が研ぎ澄まされたりするようなきっかけになると思っています。
また、ここ北東京エリアでは、まだまだヴィーガン・グルテンフリーの食事やスウィーツを提供するお店が少ないため、選択肢の一つとして必要であるとも考えています。

——お店のコンセプトはどのようなものでしょうか?
暮らしに思想があるとしたら、部屋の片隅に積まれた本や、瓶に挿された花のようなものでしょうか。日常における取るに足らない物事の積み重ねが空気のようにただよい、生活の景色を作る。触れて感じられるもの、暮らしを取り巻くものとの相互の関係によって形成される。知らず知らずのうちに、その人のものの見方や考え方を形成していく。決して大袈裟なものではなく、誰もが持ち得る地に足のついた思想。何であれ、それはあなたが望むもの、すなわち愛すべきものだということ。
近隣の方にも愛され続ける憩いの場としてこれから、この店をハブに、さらにいろいろな場所で「暮らしの思想」を振り撒いていけたらと思っています。

碧宙さんのお母様でもあるフード担当のaikaの中村美穂さんに伺いました。

——alkaさんがプラントベーススイーツを作り始めたきっかけを教えてください。
保育園栄養士として乳幼児食作りや食育、地域子育て支援に携わってきました。そこで必要とされるアレルギー児のために卵乳小麦粉不使用のレシピを開発するなかで、マクロビオテックと出会い、プラントベースの魅力にはまりました。
フードコーディネーターとして2009年に独立し、お米と野菜の料理教室「おいしい楽しい食時間」を開催。管理栄養士としてより心身の健康につながるプラントベースの食生活を探求し薬膳、ローフードを学び、プラントベースフードアドバイザーとしても活動。
コロナ禍で講座が出来なくなったことをきっかけに、もっと多くの方にプラントベースフードの選択肢を広めるべく、2021年10月、中央線東小金井駅高架下のシェアキッチンでローヴィーガンフードや発酵食品のテンペサラダ弁当を提供する「PLANT BASED DELI&SWEETS aika」を開業しました。料理と共に料理教室で教えていた米粉スウィーツやロースウィーツが人気となり、東小金井店終了後は通販、ビーガングルメまつり東京、東京都米粉キャンペーン等のイベントでグルテンフリー・プラントベーススウィーツの販売をスタートしました。五感で楽しめるスウィーツを通して、プラントベースホールフードで栄養補給もできるオリジナル商品を開発、製造し、より心地よく暮らす提案を続けてきています。
2025年4月、ブックディレクターの長男がこの店を開くにあたり、フード監修・調理担当として参加することになりました。ロースウィーツや米粉パンなど、まだ都内でも希少なグルテンフリー・プラントベースの心地よさを楽しんでいただき、植物性を必要とする方に届けるとともに、初めての方にも魅力を知っていただければ嬉しいです。

生活に本を、草花を、プラントベースを。
老若男女誰もが好きな本を手に取り、めくり、花を愛でて心惹かれた花を一輪買って帰る。
丁寧に淹れたスペシャリティコーヒーやオーガニックワインなどのドリンクとともに手作りのヴィーガン・グルテンフリーのパンや焼き菓子などをいただき心潤す。
お子さんがふらりと絵本を読みにきたり、ワンちゃん連れのおばあちゃんがほっとひと休みにくる。
人々の日々の営みと暮らしに寄り添う、そんなすてきな場所。

美しい草花、すてきな本、グルテンフリーヴィーガンスウィーツに満たされ、下町情緒にも触れられるこの場所は、きっとわたしたちの持つ感性を取り戻すきっかけになるはず。

写真・文/千葉芽弓(ちばみゆみ)
ベジフードプロデューサー/ Tokyo Smile Veggie主宰
「日本の伝統とナチュラルVEGANフードを未来に繋ぐ」をキャッチフレーズに、健康や環境、フードロスなど社会問題の解決や、食の多様性への対応のためのカフェやレストラン、宿泊施設の持続可能なメニュープロデュースや商品開発・コンサルティングならびに教育・普及啓蒙活動を行う。食を通じた復興ならびに地域創生事業、レシピ開発、食養生や食育・料理セミナーやパーティケータリング、ライター、メディア発信、イベント企画など幅広く活動している。
ホームページ:https://www.vegemiyu.tokyo/
Instagram:@vegemiyu
◆「Tokyo Smile Veggie」~トーキョーにベジなおもてなしを