ピープル・ツリーのはじまりとは?
吉良(以下、吉)
日本でもようやくフェアトレードといえばピープル・ツリーといったイメージが、オーガニックやエコに関心の高い人々の間で定着してきたと思うのですが、そもそもフェアトレードの会社を立ち上げようと思ったキッカケは何だったのですか?
サフィア(以下、サ)
私は19年前にイギリスから日本へやって来たのですが、当時の日本はまだバブル全盛期でした。そんな中、まだ着られる洋服たちが次々と捨てられている日本の現状を目の当たりにして、とてもショックを受けたんです。私が住んでいたイギリス(ロンドン)では、その当時からフェアトレードのアイテムが手に入りましたし、私自身ロンドンに住んでいた時は当たり前のようにフェアトレードの商品がチャリティショップに売っていたり、、自然食品屋さんでオーガニックの食材などを選ぶといった感じのライフスタイルでした。ですから日本でもそういったネットワークがあるといいな~と思っていたのですが、まずはコミュニケーションをとる為に日本語を勉強しなければいけなかったので、少し時間がかかってしまいました(笑)。その後少しずつ環境活動家や環境に関心の高い人々と知り合うこともでき、ネットワークも広がっていきましたが、まだまだ世の中のエコに対する認識度が低かったことに考えさせられました。そこで最初は英語と日本語で環境、フェアトレード、オーガニックといった情報発信するニュースレターを作り始めたんです。
吉 サフィアさんは確か、結婚する以前は出版社で働いていたんですよね。
サ そうなんです。私は昔から情報がとても大事だと思っていましたし、そもそも私自身が消費者という立場で、どうせお金を使うのであれば良い方向へ使いたいと常に思っていました。フェアトレードやオーガニックについて関心が高まった人々はみんなそう思うのかもしれませんが、その当時はそういった人々が参加をしたいけれど参加の仕方がわからなかった、そんな時代だったと思うんです。ですから当時の私はとにかく情報が必要だと感じて情報誌を作っていました。と同時にもっと一般的にオシャレなフェアトレードのアイテムが手に入るようになればいいな~という思いで、アジアのバングラデシュ、インド、ネパール、アフリカのケニア、ジンバブエなどの生産者団体を訪ね、少しずつ商品開発に携わるようになりました。そんな感じで当初は「自分のニーズに合う商品が欲しい!」という思いが先行していたので、今の様な会社という形態になるなんて当時は全く考えもしませんでした。
ベジタリアンというライフスタイルについて
吉 環境に意識の高い人々はベジタリアンである事が多く、サフィアさんもその一人だと伺っていたのですが、やはり環境への配慮からベジタリアンへ移行したのですか?
サ もともと昔からお肉が好きな方ではなかったのですが、完全にやめたのは現在のパートナーであるジェームスと暮らし始めた22歳の頃です。彼がもともとベジタリアンだったので、毎回彼と違う食事をする事に違和感を感じ、私も自然とベジタリアン食になっていきました。もちろんベジタリアン食は環境にも良いと思っています。私には17歳になる息子ジェロームと、14歳になる娘ナタリーがいるのですが、彼らは小さいころからずっとベジタリアン食で育ってきました。でも昔の日本はイギリスと比べるとベジタリアン対応のレストランが少なかったので、やはり家族での外食が難しいという点はありました。
吉 子ども達の出産は日本だったのですか?
サ そうです。二人とも自宅分娩でしたが、助産婦さんの環境はイギリスに比べると日本の方が良いと聞いていたので安心でした。最初は自然出産を促す病院で産もうと思っていたのですが、仕事が忙し過ぎて病院へ定期的に行くことができなかったんです。そしてあるときその病院の分娩室をのぞきに行ったのですが、私はその閑散とした雰囲気の中で出産する気にはとてもなれなかったんです。そのことを院長先生に話すと、親切にある助産婦さんを紹介してくれて自宅分娩することになりました。その助産婦さんは母乳を勧める本を書いている、自然な出産や育児に関してとても意識の高い方でした。その方に毎日どんな食事をしているのかと聞かれて、毎日玄米や無農薬の野菜を食べている事を話すと「そういう食生活だったら自宅分娩でも問題ない! 大丈夫!」って言われたことで、自宅分娩への不安も和らぎました。
吉 日本人でも自宅分娩を選ぶのにはかなりの勇気が必要だと思うのですが、まだ日本での滞在経験が浅い中でそういった選択をされるのは本当に凄いことですよね。サフィアさん自身はもちろんですが、お子さんの食事にもやはり気をつけていたんですか?
サ そうですね。保育園は毎日お弁当だったので問題はなかったのですが、小学校に上がると給食が始まり、やはり中には食べられないものも出てくるので、子ども達には追加でお弁当を持たせていました。その時の担任の先生が理解のある方だったので、子ども達にお弁当を持たせることに抵抗はありませんでした。
仕事と家族、そして子ども達について
吉 世界中を飛び回っていて常に忙しい日々を送られていると思うのですが、子育てと仕事の両立のバランスをどのように保っているのですか?
サ 家庭や子ども達との関係性にはある程度のルールがあった方が良いと思っているので、朝食と夕食はなるべく子ども達と一緒に食べるようにして、とにかく家族とのコミュニケーションをなにより大切にしています。私が仕事で忙しい時は、いつも息子や夫が夕食などを作ってくれます。
吉 サフィアさんの子ども達はフェアトレードについて関心を持たれていますか。
サ そうですね関心は高いと思います。実は長男のジェロームは7歳の時にフェアトレードについての本を書いたんです。ジェロームが私と一緒にインドネシアへフェアトレード団体を訪ねて行った時に、学校にも行けずに毎日ネックレスを作り続けている同じ歳ぐらいの女の子をみて、とってもショックを受けたようでした。「彼女が学校に行くには、彼女のお父さんやお母さんにファエトレードの仕事があればいい。彼女のお父さんやお母さんがフェアトレードのネックレスを作って日本で売れば、彼女は学校に行くことができるんだよね!」ってずっと私に言い続けるので困ってしまいましたが、大人に比べて子どもは本当に感覚がストレートで正直なんですよね。でも私自身そんなストレートさが大好きなんです。例えば「何か問題があったら解決しよう。じゃあ解決するために何ができる? コレとコレをすればいい。だったらそうしよう!」みたいな感覚でしょうか。
吉 それでは、お子さんもみんなサフィアさんに協力的だったりするんですか?
サ 私自身、家と仕事が別れているのは健康的ではないと思っていますし、子ども達には親が働く姿を見せた方が良いと感じています。フェアトレードの生産者の中には働くお母さん達も多いのですが、みんな子どもをおんぶして仕事をしています。先進国では忘れられている光景かもしれませんが、昔であれば普通の事だったでしょうし、今でもとても自然なことだと思うんです。ですから私の娘は今ピープル・ツリーの洋服のデザインを手伝ってくれていて、息子はカタログ写真の加工や販売員として手伝ってくれています。イギリスでは16歳から職業訓練校へ行って様々な専門的な技術を勉強することができますが、今はほとんどの子どもたちがあまり目的もなくただ大学に行っている事が多いような気がしています。日本でもそうなってきているのかもしれませんが、それってナンセンスなのでは? と私は感じています。もちろん知識は大切ですが、しっかり体で覚えるという技術もとても大事だと思うんです。
吉 今は日本とイギリスを拠点にしているサフィアさんですが、日本とイギリスでオーガニックやフェアトレードに対する違いなど、何か感じることはありますか?
サ 最近のイギリスではオーガニックのコストが下がってどこのスーパーでも気軽に手に入るようになり、かなり一般的になってきています。例えば私は買いませんが、現在イギリスにおけるベビーフードの7割がオーガニックになっています。イギリスは日本に比べると階級制がまだ残っているので生活レベルの差が激しいのですが、7割であればだれしも手に入るレベルの値段なんです。もちろん日本に比べるとオーガニックの食材などのコストは全体的にはるかに安いと思います。でもイギリスには日本の様にいわゆる大手の有機野菜の宅配会社などは存在しません。あったとしてもとても小規模のコミュニティばかりです。そこが違いますね。そしてフェアトレードへの認知度はイギリスでは70%以上ですが、日本では20%以下です。それは教育や報道、情報の違いから大きな差が生まれていると感じています。もちろんイギリスでみんながいつも政治や環境の話をしている訳ではありませんが、若者であっても社会や環境についての関心は高いと感じています。
吉 ここ数年で、ピープル・ツリーをはじめとするフェアトレード・ファッションやエシカル・ファッションがトレンドになってきているのはうれしいことですよね。最後にサフィアさん自身が大切にしている事を教えてください。
サ 食生活が私にとってはとても大切です。海外での仕事が多いので頻繁に飛行機に乗りますが、ベジタリアンの機内食でもお腹を壊すことがあるので、自分で玄米のお弁当を作っていくことも多々あります。やっぱりできる限りオーガニックな野菜と玄米が一番です。あとは毎日20分ぐらいヨガをする時間が持てるのがベストですね。
仕事と家庭、全てにパワフルでポジティブな女性であるサフィア・ミニーさん。今後の世界的な活躍がますます楽しみな女性の一人です!
Fair Trade 公正な対価払いと途上国生産者の自立支援
途上国で生産された原料や製品に対し、公正な対値を払うことで途上国の生産者の自立を支援する運動。1960年代の欧州で始まり、米国にも広がる。商品は農薬や化学肥料を使わない自然農法で作られているコーヒーや紅茶などの食品、手工芸品や衣服など。近年はファッション界でも注目されている。
雑誌veggy(ベジィ)バックナンバーVol.10(2010/06)より抜粋