緑の革命—ヴァンダナ・シヴァ

私たちに必要なものは、 新たな共同体意識


ヴァンダナ・シヴァ博士は頻繁に旅をする。インド国内だけでなく世界各地へ赴き、植物や種子の特許を取って利権を貪ろうという企業に対して裁判を起こし、いくつもの勝利を収めてきた。世界的な有力者とのネットワークを有し、現代における最も重要な有識者の一人とみなされている。原子物理学者としての博士号を持ちながら、前途有望なキャリアを捨て、社会問題や環境問題に打ち込んできた。 そんな博士は「ナヴダンヤ」と名づけた小さなインド式農園で過ごすことで、心身が寛ぐという。揺るぎないベジタリアンである博士は、そこに大規模な種子バンクを作り、インド古来の種子類を保管している。「ナヴダンヤ」という名前は、現在インド各地で活動をしている組織の名前としても知られている。彼女と向き合って話をすれば、だれしも“遺伝子組み換え産業が台頭するこの世の中で、私たちに必要なものは論証に裏打ちされた行動力と勇気と忍耐にほかならない”と確信することができるだろう。

ギィド・バース
–ヴァンダナさん、あなたはもう何度もドイツに来ているのでこの国の情勢をよくご存じだと思われますが、はたしてドイツは民主的な国だと思われますか?

ヴァンダナ・シヴァ
–現在の政権の意図を考えたとき、伝統的な意味では民主的ではないといえる政策が多く見られると思います。例えば、じゃがいもなどの遺伝子組み換え作物がじわじわと導入されつつあります。また、いくつかの原子力発電所の操業期間が延長されようとしていることも、私はよく知っています。しかしこういったことは大衆の希望に沿ったものではありませんから、本当の意味で民主的とは言えません。

これは一国の問題にとどまるものではないですね。

たしかにその通りです。いわゆる民主的とみなされている他の国でも政治判断が行われているわけですが、厳密に言えばそれが問題なのです。変化が必要だということが周知の事実だとしても、実際に変化を起こすことは往々にして難しいものです。正しい行動を起こそうという動きは、現状の維持や権力にしがみつくことにしか関心のない人たちの強力なロビー活動のせいで、失敗に終わることが多い。私から見れば、そういった行為はすべて誤った自由の認識に基づいています。これがアメリカ式の自由です。たとえこのやり方でうまくいくことがあったとしても、もうこれ以上は無理でしょう。これはアフガニスタンやイラク、中央アジアの国々を見れば明らかなことです。なぜなら自由の意味の履き違えこそが、こういった国々の混乱の原因となっているからです。これは現状の環境問題すべてにも関係しています。誤った自由の認識は、環境保護のアプローチに真っ向から逆行するものです。

では、その原因は一体なんなのでしょう?

基本的に原因はひとつしかありません。それは企業の強欲さです。企業による搾取は驚くほど大規模なレベルで行われており、世界中のさまざまな文化や人種が影響を受けています。例えば、モンサント社(※)のような企業がいい例です。インドにやってきて、ニームの木といったインドで最も伝統的に広く使われてきた植物に対する特許文書を私たちにつきつけました。インドではだれでも、料理や、歯磨き、治療薬への利用などなんらかの方法で、何世紀にもわたって、この植物を利用してきました。モンサントは特許によって、そういった用法のすべてを牛耳り、金儲けをしようとしたのです。当然のことながら、私たちは猛反発してすぐに行動を起こし、幸運なことに反対運動は成功を収めました。 こういった成功は珍しいことではありません。断じて許容できないことに対しては、立ち上がらなければならないのです。強欲、拝金主義、金銭的に強力なロビー活動……これらは畜産業界にも見られる要素です。しかし世の中には驚くことに、こういったことに対してまったく関心がなかったり、気づかないふりをしている人があまりにも多いのです。このまま立ち上がらずに、ただぼんやりと見過ごしていれば、地球は実際に滅びてしてしまうという事実を認識しているのにもかかわらずです。私たちは何世紀にもわたって地球の多様性を破壊してきたうえに、毎年何十億もの動物たちをなぶり殺しにしています。そして最終的に、私たちは自ら自分たちを滅ぼそうとしているのですよ。

しかし今、このままではいけないと認識する人たちが増えてきているのではないでしょうか。

そうかもしれません。しかし自分に損失がない限りは、人々は実際に環境や自分自身を変えようという行動を起こさないものです。ですから認識しているだけでは充分ではありません。取り返しがつかなくなってしまったら、その時はもう遅いのです。 食料を例にあげてみましょう。今も続く世界の飢餓問題は、食肉の生産と消費に起因しています。穀類作物の少なくとも50パーセントが動物の飼料として使われています。二酸化炭素をはじめ、その数倍も有害なメタンガスも含めて、温室効果ガス排出量の50パーセントは、この食肉生産業界から生じています。畜産は莫大な敷地を必要とします。食生活を菜食に切り替える人が相当数いれば、動物たちの苦しみを減らすことができるばかりか、世界的な飢餓問題の打開や環境保護の取り組みにおいて大きな前進となります。また、土地を奪われた人々に彼らの土地を戻すことができますし、それと同時に医療システムの負担も軽減するでしょう。

知識だけでは充分でないとしたら、私たちはどうすればいいのでしょうか。

今までの単なる営利志向の考え方を完全に捨て、思いやりや助け合いといった価値観を生活の中心に取り戻すのです。そして私たちは互いのやり取りの仕方も変えていかなければなりません。つまり、お金を主な共通基準とするやり方をやめるのです。もしそうすることができたとしたら、人々の公正性に対する意識が高まり、民主的行動とは何なのかが、本当の意味で認識できるようになっていくでしょう。そういった観点からこそ、私たちは地球を守り、救うことができる能力を養っていくことができるのです。私たちの行動様式に基本的なパラダイム変化がない限り、私たちは間違いなく失敗し、人類だけでなく他の種も全て滅びてしまいます。

民主的な国において、どのようにして政治的権力が政治的マイノリティーを踏みにじっているのでしょうか。

国民の常識や信念による力を過小評価してはいけません。インドの独立を例にあげてみましょう。インド国家の独立は民衆からの強い要求として、植民地政府全体を揺るがすようなものでした。種子の所有権や特許などといったものは、独占されてよいものではありません。インドでは女性が伝統的に種子類の扱いを任されているということを、企業側は充分に承知しています。企業は遺伝子組み換え技術をもって、そこに足を踏み入れ、同時に女性の役割をも根本から奪おうとします。そうやって不調和を生み出し、社会全体を壊していきます。私たちはいつもこういったことを、国内のみならず世界各地で政府に繰り返し説明しています。もちろん効果はありますが、当然のことながらこれは骨が折れ、時間のかかる仕事です。しかしひとつ成功するたびに、より多くの人々がこの世界的な取り組みを応援してくれるようになるので、私にはまだ希望があるのです。

実際にそういった企業で働きながら、現状に責任を負っていない人々はどういった人たちなのでしょうか。

それは興味深い質問ですね。“こんなことをする人たちはいったいどんな人間なんだろう?”とつい考えてしまいがちですが、実際に彼らに会ってみると、それぞれ家庭を持った普通の人間であり、家には愛する家族がいて、社会的にも積極的な人たちが多いものです。モンサントを例にあげると、社員は食堂で最高級の有機栽培食品を使った料理を食べているような人たちです。ただ問題は、彼らがそういった会社からお金をもらう立場にいるということであり、ほとんどの人が仕事をするために、自らの感覚を麻痺させてしまっているということです。
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ヴァンダナ・シヴァ/Vandana Shiva
1952年インド生まれ。1978年に科学哲学で博士号を取得。
1982年に設立した「科学・技術・自然資源政策研究財団」を主宰。
環境保全、女性の人権を守る運動に深くかかわる思想家・活動家であり、
世界的なオピニオン・リーダーのひとり。
1993年にもうひとつのノーベル賞として知られている
「ライト・ライブリフッド賞」を受賞。著書に『緑の革命とその暴力』、
『アース・デモクラシー』、『食料テロリズム』など多数。 http://www.vshiva.net
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ギィド・バース/Guido Barth
ベジタリアン歴20年、ヴィーガン歴9年のドイツ人ジャーナリスト。
ドイツ・ベジタリアン協会に所属。趣味は合気道。
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雑誌veggy(ベジィ)バックナンバーVol.11より抜粋

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